【アメリカ最前線リポートVol.50】身近で起きた事件からアメリカの高齢者問題を考える
ー 今週のリポートー
アーカス・リツコ(メルマガ編集長)
【アメリカ最前線リポートVol.50】
身近で起きた事件からアメリカの高齢者問題を考える
これからお話するのは、私が実際に遭遇した事例です。
関係者の方のご了解を得て、原稿にしています。
「事例」としたのは、「事件」にするのは大変難しい案件であるからですが、
高齢化社会の進むアメリカではこういった事例、事件が多発しています。
今年3月、在米75年以上、ラスベガスで一人暮らしをしていた
日本人女性が97歳で亡くなりました。(Aさんとします)
彼女は第二次世界大戦後、混乱の続く日本で米軍勤務の方と恋に落ち、
周囲の大反対を押し切って、駆け落ち状態でアメリカに渡りました。
それからは、大変苦労の多い人生だったようですが、
ビジネスで成功を収め、莫大な資産を築きました。
ご主人は20年以上前に他界し、
それ以降はラスベガスのシニアコミュニティーで
悠々自適の一人暮らしをしていました。
子供はいませんでした。
几帳面なAさんはご主人の死後、遺言書を作成し、
遺産の半分は日本の親族へ、
もう半分は「自分の老後の面倒をみてくれた人たち」に遺すとし、
何人かの親しい人たちの名前を記載しました。
日本の親族の方も、それほど近い関係ではなく、
彼女の老後の面倒をみることはできないため、内容については合意していました。
アメリカには、住むための条件が50歳以上というシニア向けの住宅地が多数存在しています。
家はシニア向けに作られており、庭が小さい代わりに共用の公園やサロンなどもあり、
人々が孤独にならないよう皆で助け合って生活しています。
Aさんもそこに30年近く住んでいました。
実際、ご近所の方はとても親切で、
グループを作って献身的にAさんをいたわり、
素晴らしい信頼関係があったそうです。
グループの人たちは遺言書の内容を知りませんので、
金銭目的ではなく、純粋に「親切な隣人」としてAさんと過ごし、
危篤になった時も、
当番制でAさんの家に寝泊まりし、最期まで付き添っていたそうです。
そこまでは大変美しい話ですが本題はここからです。
Aさんが亡くなった後、
日本の親族がアメリカへ来て、葬儀の手配をし、遺言書を確認しました。
すると、遺言書がつい最近(1年ほど前)に書き換えられていたことが発覚したのです。
以前は、遺産の半分の50%を「親切な隣人」4人に均等に渡すとなっていたのですが、
なぜかそこに知らない名前が一人(Gさん、男性)追加されていました。
このGさん、葬儀にも何食わぬ顔で出席していたのですが、
「得体の知れない隣人」として、友人たちから警戒されていた人物で、
Aさんの家に頻繁に来ては、おしゃべりしたり、
寝室の窓から見えるベランダにハミングバードの餌を設置したりして、
Aさんのご機嫌を取っていて、
時々Aさんから「病院に行く治療費」としてお小遣いも無心していたようです。
そして、2年前から車いす生活を送っていたAさんを
強引に弁護士事務所に連れて行き、遺言書の書き換えをした…らしいのです。
つまり、Gさんは、正式な遺言書のもと
Aさんの遺産の半分の20%を受け取ることになったのです。
(かなり莫大な金額です)
また、Aさんは日本人特有の「たんす預金」もしており、
日本の親族の方に、秘密の場所に現金を隠してあるので
何かあった時に使ってと(それもすごい大金)
その場所を教えてそうなのですが、
死去の知らせを受けて
アメリカにやってきた親族がその場所を掘り起こしたところ、
あったのは、5㌦紙幣が一枚残っていただけの箱だったそうです。
実に怪しい…。
Aさんの死因は老衰でした。
晩年は家で過ごすことが多く、
亡くなる2か月前くらいからは寝たきりになりましたが、
意識ははっきりしており、
認知症の症状はなかったということです。
しかし、高齢で判断力が落ち、気弱になったところに
G氏に取り込まれて情にほだされてしまったようです。
葬儀ではまるで「僕こそがAさんの最後の恋人」
だったかのような話を雄弁に語り始めたので、
皆は顔をしかめるか、その場を離れるしかありませんでした。
ともあれ、Aさん自身が弁護士事務所に出向き、
「自分の意志で遺言を書き換えた」ことは事実なので、
これは事件にはできない案件です。
しかし、怪しいことこの上ないG氏が
大金を手にすることはどうにも腑に落ちないと誰もが疑問に思っています。
こうした高齢者の財産搾取は年々増える傾向にあり、
ネバダ州だけでもこうした事例は数万件に及びます。
しかし、訴訟に至るのは数百件にとどまっているそうです。
いろいろなケースがありますが、
だいたいは親切を装って近づき、
遺言書を書き換える(または新規に作成)ケースが多いようです。
被害に遭うのは一人暮らしの老人です。
近くに親族や子供がいる場合は、
未然に防ぐこともできることもありますが、
お金の問題はなかなか話題にできないことで難しく、
「隣人による財産搾取」はアメリカの大きな社会問題となっています。
この件を知る少し前、我が家も遺言書を作りました。
財産は何もないのですが、
自分で判断ができなくなった時に備えて、
代わりに書き換えができる人(子供たち)を
指定したり、終末ケアをどうして欲しいかも指定しました。
アメリカでは一般的な遺言書の作成も、
日本ではまだまだ多額の財産のある人のすることと
お考えの人も多いと思いますが、
明日、何が起こるか、誰にもわかりません。
遺族に負担をかけないためにも
遺言書の作成を一度、考えてみてもよいかもしれませんね。





