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表現者として

ー スタッフのコラムー
ロドリガス晴海(クリエイティヴ・ヴィジョンUSA)
【表現者として】

7月も終わりに近づくと、アメリカの子供達の長い夏休みも終わりが近くなり、
多くのアメリカの学区は8月の第2週から新学年を迎えます。 
アメリカの新学年や学校制度についてはこれまでも私のコラムで多く書いてきたので、
今回は、私が今向き合っている「日本の技術を英語で表現する仕事」について
振り返ってみたいと思います。

私のアメリカ生活も今年で47年、人生の大半をこちらで過ごしています。
最初の渡米の理由は、コロラド州教育庁による交換プログラムの
“日本人民間Ambassador”として、
アメリカの子供達に日本文化を伝えるというプログラムに、
1年という期限付きで、
コロラド州デンバーにあるハイスクールにアサインされたからでした。
とても自由な立場だったので、
いろいろな科目の先生と組んで独自のプログラムを作って日本を紹介しました。 
数学の時間では、そろばんとCalculatorで計算の競争をしたり、
美術の時間には書道で生徒の名前を墨で書き、生け花のデモをしたり、
家庭科の時間にはおにぎりや天ぷらを作ったり、
浴衣を着せて、日本の着物にはジッパーやボタンがなく、
ひもで縛り、丈や幅が調節できるので、
ほぼOne size fits allなのよと言って、
体形の違う大きなアメリカ人には驚かれたこともはっきりと記憶しています。
この時代に私がやっていた”日本文化の紹介“は 
書道や、生け花、着物といった具体的な”日本らしいもの“であり、
それを書いたり、花を活け、着物を着せるなどの実際に体験をして
理解をしてもらえるものが多く、楽しいデモンストレーションでした。
 
また、通訳ガイドの研修時代には
英語よりも先に日本の歴史や文化を集中して学んだので、
この”日本を紹介する“というミッションはとてもやり甲斐がありました。 
今考えてみれば、浴衣3、4着(下駄、紐や簡易な帯も含む)、
生け花の剣山、花ばさみ、書道の硯、筆、半紙など、
持って行った私のスーツケースの中身のほとんどが
”demo“用のもので満杯でした。
47年前はまだインターネットの検索など無い時代。
料理の本も忘れずに、天ぷら、餃子、酢豚は何かの時に必ず頼まれる”日本料理“でした。
その本は水や油が飛んでボロボロになるまで何年も使いました。

私は現在、アメリカや世界の展示会で
日本の製品や技術を英語で紹介するお手伝いをしています。
同じ日本のものを紹介する仕事ではあっても、
昔は、書道や生け花、日本料理といった
自分ができること、形があって見せられるものを紹介していた過去の立場と、
自分には全く縁のないAIやロボティクス、ドローンからFood Techに至るまで、
ハイテクな技術を紹介するのではアプローチが全く異なります。 

まず最初のステップは、提出された資料を読み込み、
自分なりにリサーチを行うことです。
特に競合や同業者が使っている業界用語を日本語で理解することから始めます。
機械翻訳で綺麗に作られた英語だけを読んでもその製品を的確に理解することは困難です。
機械翻訳や、AI翻訳は、元の日本語に忠実に間違いなく翻訳ができますが、
多くの場合、元の日本語原稿が開発者、研究者目線で書かれているため、
最新技術や構造を説明されても、
最終的に消費者や一般人が
その製品でどのような恩恵を受けるかがなかなか引き出せないのです。 
私が英文を監修する時に気をつけていることは、
私の想像や創造で表現しないということです。 
何度も担当者さんとやり取りをして、
“これはこんなことができるんですね” 
“こんな風に動くんですね”と納得してから英語を考えることが第2のステップです。 
通訳時代、英語で考えることを訓練されてきた頭を、
まず日本語でしっかりと理解するというプロセスに組み替え、それを直訳ではなく、
英語文化でわかりやすい言葉に直していく作業が第3ステップですが、
両方の文化背景を理解していないとちぐはぐな表現になってしまいます。 

先日、日本の映画の字幕の第一人者、
戸田奈津子さんが、
“映画字幕翻訳家とは、外国語の映画のセリフを日本語に翻訳し、
映像に字幕をつけるプロフェッショナルです。
「1秒間に4文字」という厳しい文字数制限の中で、
俳優のセリフを自然な日本語に凝縮する高い表現力と要約力が求められます” 
と語っていた記事を読みました。
ここで戸田さんは映画を観に来る人は、
” 映画を観るのであって字幕を読みに来るのではない “
とも言われていました。 
この言葉を聞いた時、自分の仕事も全く同じだと感じました。
展示会の来場者、メディアや投資家は
その製品で何ができるか=価値を知りたいのであって、
製品の説明文を読んでいる暇はありません。

世界に誇れる数多くの日本の技術、
その価値が言葉の壁を超えて正しく伝わるよう
これからも「表現者」として学び続けていきたいと思っています。

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